共同出願により特許権を得ても、すべての共有者が実施による利益を確保できれば問題はありませんが、材料メーカーと顧客が共同出願する場合等は、共有者のどちらかが実施による利益を得るのが難しい場合があります。そこで、そのような事が想定される場合にはその対策として、共同出願時の契約に販売に関する条項等を盛り込み、共有者すべてが、実施利益を確保できるようにします。ここでは、どのような条項を契約に盛り込めば、実施利益の確保ができるのかを説明します。

 1.材料メーカーと顧客の共同出願で、発明は顧客が実施している製品の材料の場合 

この場合は材料(部品)メーカーの単独実施となるので、共同出願人の顧客のみが本発明の材料を独占購入できるように契約すれば、実質的な両者間の共同実施となり問題は発生しません。しかし共同出願人である顧客の購入量が少なく、材料メーカー側の実施利益の確保が難しいような場合は、契約書に下記のような内容を盛り込み対応する必要があります。

  1. 顧客側が材料の最少購入量を契約に盛り込み、材料メーカーに購入保証をします。
     
  2. 販売開始から3年間は本発明の材料を第三者へ販売しない、共同出願人である顧客に対して価格や納期等を優遇するといった条件を契約に盛り込み、材料メーカーの第三者に対する材料の販売を認めます。

 2.材料メーカーと顧客の共同出願で、発明は顧客が実施している最終製品の場合 

この場合は顧客の単独実施となるので、顧客が最終製品に使用する材料を材料メーカーから購入するという契約をすれば、実質的な両者間の共同実施となり、問題は発生しません。しかし、共同出願人である顧客の購入量が少なく、材料メーカー側の利益の確保が難しいような場合は、契約書に下記のような内容を盛り込み対応する必要があります。(このようなケースでは材料(部品)メーカーは共同出願人の顧客に対して、かなり不利な立場となりますが、材料メーカーの力が強い場合は「第三者が共同出願人である材料メーカーの材料を購入し本発明を実施する(最終製品を製造販売)場合は、無償で実施許諾がなされたものとみなす」という条項が契約書に盛り込まれることもあります。)

  1. 「第三者が共同出願人である材料メーカーの材料を購入し本発明を実施する(最終製品を製造販売)場合は、実施許諾がなされたものとみなす」というように、共同出願人である顧客が、材料メーカーから材料を購入した第三者への実施を許諾する条項を契約に盛り込みます。

  2. 共同出願人である顧客への対価の支払い(第三者から取得する実施料)をどうするかという内容を契約書に盛り込むことになりますが、最終製品に対する対価の支払いをどうするかという問題は難しいため、下記のようにいろいろなケースが考えられます。(対価の分配は共有者の持分比率で決定するので、持分が均等の場合は、第三者から取得する実施料は、当事者の共同出願人の顧客分だけなので通常実施料の2分の1となります。)

  1. 第三者が最終製品の何%かの対価を共同出願人である顧客に支払います。
  2. 材料メーカーが最終製品の何%かの対価を共同出願人である顧客に支払います。
  3. 現時点で決めるのは難しいため、具体的なケースが生じたときに、材料メーカーと共同出願人である顧客がそのケース毎に話し合って決定します。
  4. 対価の支払いが難しいので、販売開始から3年間は材料を第三者へ販売しない、共同出願人である顧客に対して価格や納期等を優遇するといった条件を契約書に盛り込み、材料メーカーの第三者に対する材料の販売を認めます