ノウハウとして実施していた製造技術等が、第三者によって特許出願されて登録となった場合に、その特許を出願するより前に、事業として実施あるいは実施の準備をしていたことを証明できれば、特許権の成立後も事業を実施することができるという権利を先使用権といいます。そのため、企業はノウハウが第三者に特許を取得された時に対抗できるように、先使用権の確保を行っています。技術者は知的財産部門の依頼で先使用権を確保するのに必要な技術資料の収集やまとめを依頼されることがあるので、どのような手続きかを理解しておく必要があります。

 

 1.先使用権を確保する方法 

  • 先使用権の確保をする手段として、郵便局の消印が有効と言われていますが、訴訟になったときに証拠として使えるものでないとまずいので、郵便局の消印ではなく、確定日付を使います。これ以外に、電子タイムスタンプやノウハウを特許出願し、公開前に取り下げる事で、先使用権を確保するという方法もあります。(この方法は、出願を取り消す前に優先権証明を取らないと、公的な証明になりませんので注意して下さい。)しかし、出願時にノウハウとして保護することが決定している場合には、この方法を取らずに、料金の安い確定日付の手続きが良いと思います。このように、優先権証明や確定日付を行った日より後に、そのノウハウが第三者によって特許出願されて登録となっても、その特許に対して先使用権の主張をすることができますが、先使用権の主張には、その技術等が継続して実施されているという条件が必要ですので、注意して下さい。


 2.確定日付によるノウハウ保護のやり方 
  • 確定日付による先使用権の確保とはどのようにすれば良いかを、材料の混合比がノウハウとなるプラスチック製品を例に説明します。この場合は、ノウハウとなる材料の混合比が記載されている加工工程書、プラスチック製品の図面、顧客からのプラスチック製品の注文書と伝票のコピー、プラスチック材料の注文書と伝票のコピーといった、そのノウハウを記した書類の他に、そのノウハウを使ってものを製造販売していた証拠となる伝票等の書類が必要となります。そして、このような証拠をまとめて、ひとつの封筒に入れ、封印後、公証人役場で確定日付の手続きをします。確定日付についての不明点は公証人役場に電話すれば親切に教えてくれます。

 3.確定日付で注意すること 

  • 確定日付で注意しなければいけないのは、確定日付の手続きは封印された書類を開封することで効力を失います。もし、特許権者が特許権侵害と言ってきた場合に、確定日付の手続きをした書類を開封してしまい、証拠となる封印した書類がなくなると、先使用権の立証はできなくなってしまいますので、注意して下さい。